なぜ長音を転記するために「:」を使うのか

会話分析で用いるトランスクリプションではジェファーソンシステムがよく使われる。

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この記法では、長音(音の引き伸ばし)はコロン(:)で表される。例えば、城ほか(2015: 78)では以下の用例が見られる。

SC02 : こんなでっかい天文台知ってます : ? (.) これ:

個人的には、日本語には長音符(ー)があるのに、なぜコロン(:)を使うのか疑問だった。会話分析に馴染みのある人はそのようなトランスクリプトを見ても音声をイメージできるだろうが、一般の人が読んでも直感的に分からないのはどうなんだろう、と思っていた。

SC02 : こんなでっかい天文台知ってますー? (.) これー

の方が直感的に理解できるはずだ。

そう思って少し調べていたところ、臼田ほか(2018: 182)に、国立国語研究所「日本語日常会話コーパス」の転記方法が記載されていた。このコーパスはジェファーソンシステムに従ってはいないが、長音の転記にはやはりコロン(:)を使っている。

ただし、その説明は「非語彙的な母音の引き延ばし」とされている。以下のような使用例が示されている。

すご : い,デー : タ

「データ」という単語にはそもそも長音が含まれている。辞書で調べても「データ」と記載されている。それに対して、「すごーい」は辞書には載っていない。語彙としては「すごい」であり、それが引き延ばされている。ーと : を使い分けることで、こうしたことが表現可能になる。

こう考えると、長音の転記に : を使うのも合理的な理由があるのだと納得できる。

References

城綾実・坊農真弓・高梨克也 (2015) 科学館における「対話」の構築: 相互行為分析から見た「知ってる?」の使用. 認知科学, 22(1), 69–83. 

臼田泰如・川端良子・西川賢哉・石本祐一・小磯花絵. (2018). 『日本語日常会話コーパス』における転記の基準と作成手法. 国立国語研究所論集, 15, 177–193.